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日本語FD講演会「紙の辞書は不要か―デジタルデバイスによる語彙検索―」(講師:石黒 圭氏)が開催されました

 2月24日(土)に言語教育研究センター主催のFD講演会が開催され、約80名が参加し盛会となりました。今回は国立国語研究所教授の石黒圭先生をお招きして「紙の辞書は不要か―デジタルデバイスによる語彙検索―」という題目で講演していただきました。昨今の日本語の教室では、紙の辞書や電子辞書すら持ってくる学習者はほとんどいないという状況ですが、スマホやタブレット、PC上のアプリやWebサイトで学習者がどのように語彙検索をしているのか、その実態について教師はほとんど把握できていません。スマホ辞書は、軽量で携帯に便利ですし、無料のコンテンツが多く学生には財布に優しいものですが、それだけにコンテンツの質が低いという問題があります。また、表示される画面が小さく、紙の辞書のように前後の語が表示されないので学習の広がりがないように思われます。このような問題意識から、石黒先生が世界各国(中国、韓国、ベトナム、イギリス、ドイツ、日本など)の大学で学ぶ日本語学習者110名に行った辞書検索行動調査の概要について紹介してくださいました。

 調査は、日本語学習者にスマホなどで辞書ツールを使って言葉を検索した際の操作内容の録画と、その操作内容に関する辞書検索行動の5W1Hシートへの記入を基に、検索行動を探りました。学習者はキーボード入力で検索するのが一般的な方法ですが、手書き入力や画像入力ができるのはデジタルデバイスならではの利点に思われました。講演の中では、学習者が実際に検索をしているスマホの録画画面も紹介されました。この調査では、学習者は「読む」活動の時に最も多く、言葉の意味を調べていることが明らかになりました。また、検索対象は名詞が多く、初中級では多義的な基本語彙の多い和語を、上級になると漢語や外来語の検索が多くなる傾向が見られました。特筆すべきは、日本語力の高い学習者は、検索を複数回続ける連続検索が多かったということでしょう。類義表現など関連する語彙を調べて、検索の精度を高めたり、類義表現との相違を明確にしたり、知識をネットワークとして定着させているようだということでした。さらに、検索の成否の自己判断では、「達成できた」という自己申告が多かったですが、中には検索動画を確認すると、達成できていないものも散見されたということです。

 調査を行った結果として、良い学習者の辞書使用実態には学べる点が多いことや、また、辞書を有効活用するには、授業で言葉の読み方や筆順をきちんと指導する必要性があることなどが指摘されました。石黒先生ご自身も言及されていましたが、この調査はChatGPT登場以前の2022年の調査であることから、今後は生成AIの使用も分析したいとのことで、聴衆からもその期待が寄せられました。質疑応答では、現場で学習者のスマホの辞書検索を目にしている教員も多く、それらの問題点などが共有され、活発な意見交換がなされました。学習者のスマホの辞書検索は、教室で教師が画面を覗くことは難しいため、本講演で紹介された調査結果は、スマホやPCの使用について大いに考えさせられる機会になりました。

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