教員ブログProfessor's blog

私の好きな場所

逸見へんみシャンタール

上智大学で私の好きな場所は、1号館1階の大きな古時計がある廊下に隣接している102号室です。壁は重みのある立派な木のボーダーで囲まれており、祈りの場所を思わせます。暑い日には少し早く教室に行き、ひんやりとした空間で授業の流れを思い浮かべると、その日は不思議とうまく流れます。102号室は初めて上智でドイツ語学科の学生に英語を教えた時に使用した教室で、思い出のオルゴールのようです。教室のドアを開けると会話が再生され、記憶のネジを巻き戻すと昔教えた学生の声が再び流れて来ます。

私が好きなもう一つの空間は6号館1階のLLC(Language Learning Commons)です。開放感のあるガラス張りのホールには燦々と日が差し込み、大きく美しい空間が私たちを迎えてくれます。その時に感じる絨毯の心地よさと向こうから聞こえてくる様々な言語での話し声は私を落ち着かせてくれます。幼少の頃住んでいたロンドンの、ヒースロー空港に降りたときの多様な人々の話し声に似ているからです。

新学期の始め、私は2つの英語のクラスの学生と共にLLCに向かいました。アカデミック・コミュニケーションとアカデミック・スピーキングの学生です。学生たちは授業以外にたくさんの活動をしていて、スポーツ、クラブ活動やアルバイトなど、忙しい生活の中、英語力を伸ばすために頑張っています。

思えば40年前、私が大学生だった頃は、授業の後、吉祥寺のジャズ喫茶に寄り、友人と小説について話し、コーヒーを飲みながら、自分たちの思い込みの「大人の雰囲気」を楽しんでいました。当時好きだったことは、イギリスの現代詩を読み、それを勉強部屋で何回もカセットテープに録音して、詩のリサイタルに出ているつもりで朗々と読み上げることでした。そんな一人遊びを「自習」だと思い込んでいたのでしょう。小さい勉強部屋の天井がローズレッドで、小説の主人公のような気持ちで好きな本を読んでいました。私は今でも落ち着く空間があると幸せに感じ、何時間でもそこにいて充実した時を過ごすことができる幸せ者です。

LLCに行った日は、クラスの皆がある目的を持っていました。それは春学期の自習の目標を立てることでした。入口にある映画のDVDや入って左側にある英語のgraded readersなどに興味が寄せられ、学生はそれぞれの目標を立てました。「春学期は映画のDVDを観てレポートを提出する」、「TOEFLのテストに向けて、ここの参考書を使って勉強する」、「英語の本を読んで単語の数を増やす」、「e-learningで英語を頑張る」など、それぞれの学生が目標をプリントに書いて提出しました。一番興味深く感じたのは、ある学生が「あそこで英語コミュニケーショングループを担当しているリーダーに僕も教わっています」と囁いたこと。「大学院生でとても優秀な方なのです」と呟いたことはとても嬉しく感じました。

6号館の建物は白木がふんだんに使われ、落ち着いた空気感があります。英語のコミュニケーショングループのリーダーは学生に語りかけ、参加者の意見を小さいホワイトボードに書き上げ、会話が弾むような工夫をしている様子でした。こんな空間は学習アドバイザーやスタッフに支えられ、大学院生も積極的にサポートしています。大学生の頃は一人で詩の朗読をすることが自習だった私ですが、楽しく「対話的な」あたたかい場所、そんなLLCが気に入りました。

今度6号館に行く機会がありましたらお立ち寄りください。きっとその空間に吸い込まれて行くと思います。在学中にお気に入りの場所をどうぞ見つけてください。

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