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日本語FD講演会「『状況』から出発するアプローチ-新しい日本語教育の可能性-」(講師:小林ミナ 氏)が開催されました

2月26日(土)に言語教育研究センター主催のFD講演会が開催されました。早稲田大学大学院日本語教育研究科の小林ミナ先生をお迎えして「『状況』から出発するアプローチ-新しい日本語教育の可能性-」という題目で講演していただきました。今年度も昨年度に引き続き、コロナ感染拡大防止のためZoomによりオンライン開催となりました。しかし、遠方からも参加していただくことができ、計202名が参加しました。

まず、小林先生はこれまでのご自身の経歴や経験、そして、その中で感じてきた疑問についてお話になりました。外国語教育にコミュニカティブアプローチというコミュニケーション重視の教授法が入ってきて以来、多用されるようになったロールプレイに対してずっと違和感を感じてきたそうです。ロールプレイとはロールカードで学習者に役割が与えられ、それを演じる活動ですが、学習者にはロールカードの場面設定や指示について、自分がロールカードに書かれている状況に陥ることはあり得ないと反発された経験が度々あったそうです。ロールカードには、未来の行動についての指示が書かれていますが、過去のその人物の状況を学習者が想像するというひと手間が必要で、そこに学習者にとっての現実世界との乖離が生じているということです。

このような経験を出発点に日本語の授業の試行錯誤を重ねる中で、日本語の文型中心のシラバスで対立を示すものとしてペアで紹介されている文型が、状況によってその組み合わせが異なってくることも指摘されました。例えば、初級の教科書では、助言を求められた際に使う文型として「~た方がいい/~ない方がいい」をペアで機械的に教えますが、状況によって「~た方がいい/~なくてもいい」など他の組み合わせで考える方が適切な場合があるというような例をいくつか示されました。

小林先生は、講演のまとめとして、従来の「言語」から出発するアプローチには理論と実践において問題があり、「状況」から始まるアプローチが必要であることを提案されました。そして、そのためには、今までのように教師が文法書を勉強して学習者に伝えるような静的な文法教育能力では不十分で、学習者の頭の中で起きていることを推測する洞察力や、自らの文法知識や言語分析力を駆使する瞬発力、さらに学習者に伝えられる説明力といった、動的な文法教育能力が必要であることを力説されました。既存の文法シラバス、定型の文型の組み合わせに慣れ親しんでいる日本語教師には、とても考えさせられる講演会となりました。

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